「ケトジェニックダイエット=炭水化物を極端に減らす」という点だけに注目すると失敗する可能性があります。成功の鍵はインスリン(インシュリン)のコントロールにあります。
どれだけ早くケトーシスに移行できるかが重要なので、徐々に炭水化物を減らしていくのはよくありません。一気に炭水化物(糖質)をゼロにした上でインスリンの分泌を促し、インスリン感受性も高めることがそのポイントです。これにより血糖値が急激に下がって速やかにケトン体を代わりのエネルギーとして使うようになります。
中途半端な糖質制限はケトジェニックダイエットを失敗させます。糖質制限によって失われるエネルギーを補うためには十分な脂質を摂取してください。糖質も脂質も不足していると体は糖新生によって筋肉などのタンパク質を分解してエネルギーを作り出します。(何が何でも体重を落としたいという人はこれでもいいのですが、筋肉が失われてしまうのでリバウンドしやすくなります。)
体が糖を必要とするTCA回路を使わずに、ケトン体をエネルギーとする回路を使うように仕向けます。
インスリンの感受性や分泌を高めるサプリメント
ケトジェニックダイエット開始時はインスリンの感受性や分泌を高めるサプリメントを食事やプロテインと一緒に摂取すると良いです。
以下に代表的なものを挙げておきます。
抗酸化物質
酸化ストレスはインスリン抵抗性に関与しています。
酸化ストレスは、生体内の酸化反応と還元反応のバランスが崩れて「酸化反応>還元反応」となった状態と定義されます。
抗酸化物質であるビタミンE、ビタミンC、αリポ酸、などがインスリン感受性を改善するという臨床的報告があります。
参考文献
アミノ酸
人においてインスリンの分泌を誘導する最も強力な物質はグルコースだと考えられています。
「魚類ではインスリン分泌誘導効果が最も強いアミノ酸はアルギニンであり、アラニン、セリン、メチオニンなどがこれに続く、しかも、その効果はグルコースの2倍以上」という研究結果があります。
人においてもアルギニンであり、その効果はグルコースに近いものです。
ロイシンとイソロイシンは耐糖機能の改善とインスリン感受性の上昇によるグルコース代謝改善があります。比較するとイソロイシンの方が若干強いです。
ロイシン自体が有するインスリン分泌作用は弱く、ロイシンがインスリン分泌を著しく刺激するためには同時に血中グルコース濃度の上昇が必要です。
イソロイシンはインスリン濃度に影響を及ぼさずに血糖値が減少します。
この分野はどんどん研究が進んでいますので、過去に正しいとされてきた情報がいつ時代遅れになるか分かりません。
参考文献
●インスリン本来の機能は?(PDF)
●Fajans SS, Floyd JC Jr, Knopf RF, Conn FW. 1967.Effectofaminoacidsandproteinson insulin secretion in man. Rec Prog Horm Res, 23, 617-662.
●イソロイシンの糖代謝調節作用と臨床応用の可能性 (宇都宮大学)
●分岐鎖アミノ酸の生理機能の多様性(名古屋大学)
脂肪酸
疫学研究では魚を多く摂取する高齢者は筋力が強いという結果があり、骨格筋の維持に有用である可能性が示唆されていました。
魚油に含まれるオメガ3系脂肪酸であるEPA(エイコサペンタエン酸)はIGF-1による筋蛋白合成系のシグナルを亢進します。
EPAには、抗炎症作用、インスリン感受性亢進作用があります。
EPAは膜の受容体を介して細胞内シグナルに影響を与えます。このシグナル改善作用はEPA投与後すぐにではなく、数日が必要となります。
参考文献
ケトーシス移行期におすすめのサプリメントと推奨摂取量
多くの研究論文を読んでいるであろう山本義徳氏の文献やその他の論文を参考にしてここまでに紹介した栄養素の推奨摂取量を以下に書いています。推奨摂取量については折を見てさらに論文をあさってみたいと思います。
三石理論を確立した三石巌氏は、おそらく分子栄養学という単語を世に送り出した最初の人物と思います。彼の著書「分子栄養学のすすめ」(自主健康管理の基礎知識)にはビタミンカスケードという考え方が論じられています。ビタミンを大量に摂取することで人体内の各所で必要なビタミンを満たすための理論です。
ここではメガビタミン主義と呼んでビタミンの大量摂取を薦めています。
過剰摂取は気になるところですが、以下に書いているビタミンは過剰摂取してもすぐに体から排出されてしまいます。
ケトーシス移行期におすすめのサプリメント6選
●アルギニン:食後3g、一日9g
●ビタミンC:一日2g~5g(水溶性ですぐに排出されてしまうのでこまめに。タンパク質の合成にも欠かせないため筆者は一日8g~10g摂取することもあります。)
●ビタミンE:一日400~800IU
●EPA:一日600mg
●BCAA:食後5g(ロイシン、イソロイシンの摂取を目的)
ケトジェニックダイエット中にバルクアップはできるのか?
実際に試してみたところ、オーバーカロリーであれば筋肉はつきます。そして脂肪もつきます。
ロイシン、イソロイシンは直接的にアミノ酸センサーであるmTORを介して、S6Kを活性化します。EPAは4E-BPを活性化します。これらはタンパク質の合成を促進します。
バルクアップにはこれらのサプリメントの力を借りました。
糖質を摂取してのバルクアップと比較しての差は測っていませんが、インスリン感受性を高めて糖質を利用したほうが早そうです。
参考文献
●mTOR複合体1-4E-BPシグナル伝達系による翻訳の制御を介したミトコンドリアの活性化(森田斉弘・Nahum Sonenberg(カナダMcGill大学Department of Biochemistry))